有限可換群の部分群―Lagrangeの定理の逆
- :集合
- : は を割り切る
- :群 の位数
- :集合 を であることを強調した記法
一般に,有限群 では,任意の部分群 の位数について という関係が成立します.これは Lagrange の定理(の系)として知られています.
では,逆に,有限群 とその位数の正の約数 を任意にとってきたとき, には位数が である部分群 は存在するのでしょうか.これについて可換群の場合を見ていきます.
有限可換群と Lagrange の定理の逆
次の有限可換群の基本定理(定理 1.1)を起点とします.ここでは定理 1.1 の証明は割愛します.\begin{align}
G \cong \setZ/e_{1}\setZ \times \cdots \times \setZ/e_{t}\setZ.
\end{align}また,この条件を満たす は一意的に定まる.ただし, ならば と解釈する.
この有限可換群の基本定理から次の主張が得られます.これで早くも目標は達成です.
証明.定理 1.1 から, を満たす が存在して, が成り立つ.
この同型から に関して が得られる. はこれを割り切る整数であるから,すべての に対して となるような正の整数 が存在して, となる.
そこで, で とおいて,
\begin{align}
\widehat{H} \coloneqq (f_{1}\setZ/e_{1}\setZ) \times \cdots \times (f_{t}\setZ/e_{t}\setZ)
\end{align}とおくと, の位数 は
\begin{align}
\lvert \widehat{H} \rvert = \prod_{i=1}^{t} \lvert f_{i} \setZ/e_{i} \setZ \rvert = \prod_{i=1}^{t} \frac{e_{i}}{f_{i}} = \prod_{i=1}^{t} d_{i} = d
\end{align}となる.
したがって, の部分群にも位数が のものが存在する.□
Lagrange の定理の逆を満たさない群
前節で有限可換群に対して,その位数の正の約数を位数とする部分群が存在することを示すことができました.言わば「Lagrange の定理の逆が成り立つ」ことが分かりました.ところで,そもそも「Lagrange の定理の逆が成り立たないような群」,すなわち「位数の正の約数を適当にとったとき,その値を位数とするような部分群が存在しないことがある群」は存在するのでしょうか.実は置換群の部分群である交代群にそのような群が存在します.最後にこのことを示します.
この命題の証明のために補題を一つ用意します.
証明.群 の部分群 が を満たすとする. ならば である.さらに,\begin{align}
\lvert \shiguma H \rvert= \lvert H \shiguma \rvert = \lvert H \rvert = \frac{\lvert G \rvert}{2}
\end{align}が成り立つ.したがって となる.ここで は差集合を表す.これより次のように書ける.
\begin{align}
G = H \sqcup \shiguma H = H \sqcup H \shiguma.
\end{align}
いま と をそれぞれ任意にとる.このとき,以下のようにして が従う.
- もし であれば, は部分群なので,.
- もし であれば, となることから,.
以上より, は の正規部分群となる.□
命題 2.1 の証明. が の位数 6 の部分群であるとする.補題 2.2 より は の正規部分群であり,(左)剰余類の間に演算が入る.この演算を用いて に対して を得る.ここで であることを用いた.もし仮に が
\begin{align}
\shiguma^{3} = 1
\end{align}を満たすなら, より を得る.したがって,
\begin{align}
\# \{\shiguma \in \mathfrak{A}_{4} \mid \shiguma^{3} = 1\} \le \lvert H \rvert = 6
\end{align}となる.しかし, には条件 を満たす元が
\begin{alignat}{3}
&\acperm 1234, & \quad\quad & \acperm 1342, & \quad\quad & \acperm 1423,\\
&\acperm 2314, && \acperm 2431, && \acperm 3124,\\
&\acperm 3241, && \acperm 4132, && \acperm 4213
\end{alignat}の 9 個あり,先ほどの不等式と矛盾する.したがって には位数 6 の部分群はない.□
なお, 次の交代群 については, ならば可換群であるため命題 1.2 から「Lagrangeの定理の逆が成り立つ群」であると, ならば単純群であるため補題 2.2 から「Lagrangeの定理の逆が成り立たないような群」であると明らかになります.
参考文献
[1] abstract algebra - $A_4$ has no subgroup of order $6$? - Mathematics Stack Exchange[2] Does a finite group has subgroups of order of all divisors of its order? - Mathematics Stack Exchange