複素数に対する作図可能性の代数的な特徴付け
本記事では,いま読んでいる本*1*2 にあった個人的に引っかかった記述を,自分なりに掘り下げた報告を行います.記事の本文に当たる部分はLaTeXでpdfにしたほうが楽に作れるため,貼り付けたGoogleドライブのリンク先のファイルに預けてあります.そこで,以下ではpdfの要旨を,これを書いた
記事本文の預け先:
drive.google.com
経緯
『数論序説』の18節:「正 $l$ 角形の作図」には,正 $l$ 角形に関して,$l$ が2冪の場合には作図可能であること(命題2.12*4)と,作図可能となる奇素数 $l$ の条件(定理2.5)が記述されています.
このとき,「複素数 $\alpha$ が作図可能」ということは次のように定義されています.
- すべての $i = 1, 2, \ldots, n$ に対して $[F_{i} : F_{i-1}] \le 2$
- $\alpha \in K_{n}$
となるものが存在する
しかし,この定義は我々が「作図可能」という単語を聞いたときに思い浮かべるであろう直観的な定義,すなわち,
とは掛け離れています*5.
『数論序説』には上記の定義の直前にこのギャップを埋める説明がなされていますが,証明というよりも事実(あるいは読者の演習)程度の記述でした.そこで私は他のテキストを当たることにしました……*6
『代数学2 環と体とガロア理論』(いわゆる「雪江代数青」)の4.8節:「作図問題」では,作図可能性の定義として上記の「直観的な」定義を据えて記述がなされています.そして作図可能性について以下のような代数的な特徴付け(補題4.8.3および定理4.8.4)を得ています.
- すべての $i = 1, 2, \ldots, n$ に対して $[F_{i} : F_{i-1}] = 2$
- $\alpha \in K_{n}$
となるものが存在する
「これで行間が埋まった……!!」と思いたいところですが,よく見ると定理Cの特徴付けは実数に対してだけされていて,「2次拡大」の列も $\mathbb{R}$ の部分体に限定されています.したがって,これを一般の複素数に対して適用しようと思うと,ちょっと話が変わってきます.
実は定理Cの証明を再考すると,複素数に対する特徴付けとして次の主張を得ることができます.
- すべての $i = 1, 2, \ldots, n$ に対して $[F_{i} : F_{i-1}] \le 2$
- $\mathop{\mathrm{Re}} \alpha,\ \mathop{\mathrm{Im}} \alpha \in K_{n}$
となるものが存在する
以上を踏まえると,最初に感じた行間は以下の主張を示せば完全に埋まることになります.
$$\mathbb{Q} = K_{0} \subseteq K_{1} \subseteq \cdots \subseteq K_{n} \ni \mathop{\mathrm{Re}} \alpha,\ \mathop{\mathrm{Im}} \alpha$$
があること
と
(2) 複素部分体からなる2次拡大の列
$$\mathbb{Q} = K_{0} \subseteq K_{1} \subseteq \cdots \subseteq K_{n} \ni \alpha$$
があること
は等価である
つまり,複素数 $\alpha$ そのものについて複素数体の部分体である2次拡大の列がうまくとれることと,その実部と虚部について実数体の部分体である2次拡大の列がうまくとれることが等価であることを示せばよいことになります.
「この残滓Eの証明をやったよ」というのがpdfの主たる内容(定理1.3.3)ということになります.